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家族会議の結果、古いピアノを引き取ってもらうことにした。解体して、中を確認した上で最終的な見積りをする、と業者は言う。どこが壊れているのかわからない電気製品と違って、解体することでその価値がわかるというのは、アナログ製品ならではの良いところだろう。一方、解体してみると響板は割れていて、虫も侵入していた。響板の割れの原因のほとんどは、乾燥。正確に言えば、湿度の差の変化に木材が対応できないことによるものらしい。そして響板の割れは、ピアノとして価値がない、ということになり、引き取り価格は激減。期待はしていなかったものの、タダ同然となると「愛着」も重なって愕然とする。自動車マニアではないが、部品を取り換え、取り換え、1日でも長く愛車を乗り続けるような「愛着」の感覚は、人間が持つアナログな側面だ。響板割れによって振動する領域の一部が損なわれるのは事実ではあるが、それが、1台1台のピアノの持つ個性だろう、と思うと、手放すべきではなかったかと後悔もする。

 

話をピアノに戻そう。音が出るしくみによって楽器を分類すると、弦楽器、管楽器、打楽器の3つに分けられる。ピアノの祖先は、弦を響かせて音を出す1本弦の弦楽器のようだ。鍵盤を押すと、その奥にあるハンマーが下から弦を打つ。弦の片方の端は、駒で支持されていて、駒が響板に載っていて、弦の振動を響板に伝えるというしくみ。弦を叩いただけでは小さな音しか出ないし、弦1つ1つから出る音を忠実に表現するために、響板が空気を振動させ増幅させる。弦を振動させる、駒に伝える、ボディー(響板)が増幅する、音が出る、というのは、バイオリンと同じ。まさしくピアノは弦楽器である。しかし、バイオリンとピアノとでは、圧倒的な違いがある。バイオリンの弦は4本。ピアノの弦は200本。ピアノの駒は固定されていて、バイオリンのように高さや角度を変更することができない。ピアノの弦の張力は1本あたり平均90Kgにも及ぶそうで、200本の総張力は20トンを超えることになる。前述の通り、構造上、この張力は、駒をとおして響板にかかる。そして、この張力は駒を押し下げる力として働く。したがって、この力を支えるために、響板には微妙なソリが加えられていてるというわけだ。弦の貼り方と、駒の位置、弦との角度、響板の状態を考慮しながら、それらをいかにバランスよく調和させるかに注力した匠の技の集大成がピアノというわけである。

 

話を響板の割れに戻そう。微妙なバランスの上に成り立っている増幅効果を得るため、響板は非常に重要であることは理解できる。しかしここには理解されていない事実が隠れているような気もする。つまり、音の振動が響板を横切って伝わるという誤った理解だ。響板は、そもそも部分的に振動しているわけでもなく、全体で空気を振動させるわけで、一部の割れが増幅する能力を低下させるかもしれないが、その量は微々たるものであるといっても過言ではない。例えば、響板の表裏面積に対し、一辺の半分ぐらいまでの巨大は亀裂が入っていたとしても、このクラックの面積は空気を振動させる体積に比べれば、1%にも及ばず、まったく無視できる範囲になる。本当なのか?と疑問にもたれる設計者がいるとすれば、バーチャルツインを試してみていただきたい。数学的モデルや科学的法則に基づいて実世界を表現することで、今まで触れられることのなかった現実が見える。科学技術はそこまで進んでいる。

 

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